研究会レポート2023年11月開催:仕事と介護の両立問題を考える
~介護離職ゼロに向けて企業が行うべき両立支援~
RESEARCH SOCIETY REPORT

団塊の世代全てが後期高齢者となる「2025年問題」や従業員の平均年齢上昇に伴い、「仕事と介護の両立課題」がますます重要となっています。今回は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の池田心豪氏をお招きし、介護問題が深刻化する今だからこそ、企業に求められる施策についてご講演いただきました。

タイムスケジュール
  1. オープニング 講師紹介
  2. 【講義】仕事と介護の両立問題を考える~介護離職ゼロに向け企業が行うべき両立支援~
    ①介護は育児と違う
    ②育児・介護休業法の枠組みと今後の改正について
    ③有効な両立支援策の検討と行わない場合のリスク
    ④「仕事と介護の両立支援」と「従業員のウェルビーイング」
  3. 【グループディスカッション】

まず、介護は育児と異なり、時間拘束が緩やかであり、両立支援のニーズが多様で会社から見えづらいため、「休むよりも出勤しながら柔軟に介護に対応することが必要」と問題提起されました。遠距離介護なのか、認知症の有無によっても、必要な支援は人により異なります。制度の使い方も四面四角に当てはめるのではなく、育児とは異なる発想で介護休業の分割取得、フルタイム勤務の柔軟化、残業免除など、ニーズに合わせた柔軟な対応が求められるとしました。

次に、育児・介護休業法の枠組みと今後の改正についてご説明いただきました。介護休業は介護体制構築の回数と日数を前提に定めされていることを確認し、介護の局面に応じて柔軟に対応し、体制が整い次第職場に戻り仕事を継続するという考え方が重要だと述べられました。介護は終わりが見えないことも特徴で、所得ロス・キャリアロスを抑えるために、なるべく仕事を続けることが基本だとも強調されました。また、離職防止に最も効果がある制度は所定外労働免除であり、まとまった期間の連続休暇よりも、1週間程度の休みを断続的に取る働き方が介護のニーズに適しているとのことでした。
今後の改正の方向性として、従業員への個別周知、介護に直面する前の早い段階からの情報提供、研修等の環境整備が義務付けられるとのことで、多様なニーズに応えるためには対話による相互理解が求められるとも説明されました。

続いて、どのような両立支援が有効なのか示唆いただきました。育児と異なり介護においては生活時間配分の問題だけでなく、介護による健康状態の悪化や家族・友人との人間関係の問題にも注意が必要で、個々の悩みや問題を把握することが重要だと述べられました。さらに、リスクは離職だけではなく、仕事のパフォーマンス低下などに現れるプレゼンティーズムの問題にも目を向ける必要があると指摘されました。

最後に、「従業員のウェルビーイング」という観点から、企業は 「介護離職ゼロ」ではなく「介護不幸ゼロ」を目指すべきと提唱されました。介護をする従業員の半数以上が肉体疲労や精神的ストレスを抱えながら仕事をしている中、両立支援において最も基本となるのは健康管理だといいます。なるべく仕事をしながら介護に対応し、生活にゆとりを持たせる働き方を提示することが、従業員のウェルビーイングを高めることにつながるとして、短時間勤務の柔軟な運用など新たな可能性について労使で話し合ってみてはと提案し、終了となりました。

池田心豪氏

海野 千尋氏

独立行政法人労働政策研究・研修機構 主任研究員

主な論文に「介護疲労と休暇取得」(『日本労働研究雑誌』643号、2014年)、「在宅介護の長期化と介護離職―労働時間管理と健康管理の視点から―」(『季刊労働法』253号、2016年)など。
厚生労働省「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」「『転勤に関する雇用管理のポイント(仮称)』策定に向けた研究会」委員。 ほかに「両立支援ベストプラクティス普及事業」「仕事と介護の両立支援事業」厚生労働省委託事業の委員を数多く務める。
最近の主な著作に『仕事と介護の両立』(単著, シリーズダイバーシティ経営, 中央経済社, 2021年)、『社会学で考えるライフ&キャリア』(共編著, 中央経済社, 2023年)