1963年の創業以来、数々の企業施設・文化施設の運営に携わってきたサントリーパブリシティサービス株式会社。「人が財産」という企業風土と女性が多い職場事情から、いち早く育児支援に取り組み、「安心して長く働ける」環境づくりを進めてきました。目下、育児支援の次の課題として取り組みを加速する介護支援について、SPC推進センター 課長の伊東博之様、主任の石渡尚様、横田利菜様にお話を伺いました。
私たちはモノを作っている会社ではありませんから、まさに人が資産であり、サービスの源泉であると考えています。「人を大切にする」「従業員に長く働いてほしい」というのが基本的な考え方。女性が9割近くを占める会社ですので、ひと昔前であれば、結婚や出産を機に退職するというケースがほとんどでしたが、時代の変化とともに結婚、出産後も働き続けたいという方が増え、そういった方々が安心して長く働ける環境整備の第一歩として育児支援に取り組んできました。それがある程度カタチになり、定着した段階で、次に目を向けたのが介護支援でした。
社員の平均年齢も上がってきたこともあり、介護に直面する人、これから直面するであろう人も多いのではないかと仮説を立て、まずは知識を届けようとセミナーを始めたのが3年前。当時、目立って問題が顕在化していたわけではありませんが、育児に比べると介護は話しにくい話題でもあり壁が高いので、人知れず悩んでいる人も多いのではないかと考えたのです。自分に置き換えて考えてみても漠然とした将来の不安はありますから、そうした不安を払拭するだけでも安心して働くことができることは容易に想像がつきました。「“育児の壁”は乗り越えたから、次は介護だね」という感じで、議論の余地もなく自然な流れで取り組むことができました。
当社の従業員は約2,700人。従業員一人ひとりに向けて知識を届けるのは、時間も労力も並大抵ではありません。日頃から身近でメンバーを見ているマネジメント層がしっかり知識を持っておくことが会社全体への周知、そして風土づくりにつながると考え、マネジメント層への周知から始めました。比較的年齢の高いマネジメント層は「自分事」として捉えやすいこともありますし、実際に介護の悩みを抱えたメンバーへの配慮やシフトの調整に直面している可能性もあります。相談を受けたときに「こういう制度があるよ」とか「地域に相談できるケアマネジャーがいるよ」と応えられるだけでも職場の安心感は大きく変わるはず。仕事の状況や職場環境を把握している上司が適切に対応できることは、安心して働ける風土を醸成する上で重要だと考えました。問題が顕在化していない段階でも、面接の際などに介護に関する悩みがないか耳を傾けるアンテナを持てるという効果にも期待しています。
目に見えて効果が現れるのはまだこれからだと思いますが、セミナー自体は大変好評で「受けてよかった」という声をよく聞きます。先日、あるマネージャーから「介護に直面しているメンバーの相談に応えることができた」と報告がありました。「介護休業は介護する体制を整えるためにとるものなので、93日連続で取得することもできるが、分割取得して、状況に応じて体制を整えていくほうがいいよ」とアドバイスができたそうです。セミナーの効果を実感できた最初の事例ですね。知らなければできないことですから。
また、マネージャー自身も実際に介護をしている人は少なくないので、セミナーを通して「他の人と情報を共有できてすっきりした」という声や、同じ状況にいる人の話を聞いて涙するような場面もありました。マネージャーも一人の社員として、悩みや情報をシェアすることで気持ちが楽になったケースが多いようです。
最初の2年間でマネージャー層には一通り、セミナーを受けてもらうことができましたので、昨年からフルタイムのエリア社員にも門戸を広げ、よく多くの従業員への周知を図っている段階です。
私たちの仕事は接客業であり、約80拠点の多くは扉の向こうにお客様がいらっしゃる環境ですから、職場では同僚であってもお客様に対するのと同じで、個人的な話をしたり、感情をさらけ出したりすることが難しい雰囲気があります。そうした職場環境の中で、不安を打ち明けるとすれば上司になりますが、上司も50人近いメンバーを見ているので目が行き渡らない部分もある。だからこそ、セミナーのような機会が大切で「ここは介護のことを話す場だよ」というメッセージを発信すると、雑談の時間に今まで職場で話せなかった不安や悩みが出てきます。
介護はどうしても後ろ向きなイメージがあるので話しにくい面もありますが、エリア社員にセミナーの呼びかけをしたら多くの手が上がったように、介護に関する将来の不安は誰もが持っていて潜在的なニーズが高かったのだと思います。
介護を理由に仕事を休むことにはまだ多少の偏見があるのかもしれませんが、今では育児休暇をおかしいと思う人がほとんどいないように、セミナーを繰り返し行い地道に啓発を続けていくことでそうした偏見もなくなっていくのではないかと期待しています。
ただ、介護に限らず色々な問題の根幹にはアンコンシャス・バイアスがあると考えています。当社には、役職別に身に付けてほしいスキルを記した「スキルマップ」という表があるのですが、次のリニューアル時に「アンコンシャス・バイアスの存在を理解する」という項目を追加することを検討しています。労務トラブルの多くは根底に「自分は正しいのに…」という思い込みがあります。「自分が正しいと信じていることこそ、疑ってかかるべき」という概念を知ることで解決できることも多いのではないかと。その一つが介護に対する偏見であると捉えています。
育児も介護も同じで、会社がサポートできることには限りがあります。特に介護においては会社が直接的にサポートできることは多くありません。「自分で切り拓いて乗り越えていく」ということが基本であり、最終的に目指すところでもあります。ツールを用意したり制度を整えたりという会社のサポートはそのためのもの。今は情報を提供し知識を付与していく段階ですが、自分の人生を切り拓いていくキャリア自律の意識を醸成していくのが、次のステップになるだろうと考えています。
当社では年に一度「キャリアデザインシート」というツールを使って上司がキャリアサポート面談を行っています。以前は、主に職務上の希望を聞くためのものだったのですが、昨年からは今の自分の状態を棚卸しして、今後どんな働き方がしたいのか、どういう仕事をしていきたいのかを自分でしっかり考えて上司と共有するための機会と位置づけています。そこでもし、介護に直面しているのであれば、介護をしながらどう働いていくのが望ましいのか、どうしたらそれが実現できるのか、上司には何を協力してほしいのか、を考えて上司と話ができる。その機会を会社は用意していることを伝えたいです。
私たちの仕事は受託した運営を行うことであり、クライアントの要望に忠実に応えることが求められます。しかし、言われたことをしっかりやるだけでは自分がいつか疲れてしまう。人生百年時代といわれる今、この会社にいるから身につけられること、これから身につけたいこと、どんなことでも目標を持つことが自身の充実につながっていくのではないか。「自分の人生は自分で切り拓こうよ」というメッセージには、そんな考えが背景にあります。
冒頭にもお話しましたが、当社の資産は「人」であり、投資先もやはり「人」です。自己啓発のための投資は積極的に行っていきます。それぞれの地域で働く人が働くことに喜びを感じられる会社でありたい。大げさに聞こえるかもしれませんが、幸せな社会の一端を担える会社を共に作っていきたいと思っています。
取材日:2022年3月9日
※撮影時のみマスクを外して撮影を実施しております。
仕事と介護の両立セミナー基礎編・応用編
仕事と介護の両立セミナー基礎編と応用編を開催。
当日のライブ配信と、後日、当日参加できなかった方のために録画も配信。
イベントとしてセミナーを開催することで、啓発・周知につなげつつ、
録画配信により、必要な時にいつでも情報を得ることが出来る環境を作ることが出来ます。