衣・食・住にまつわるブランドを運営する、株式会社サザビーリーグ。女性社員が8割を占める同社では、2016年より特に女性の「働き方」に着目したプロジェクトを展開してきました。ちょっとがんばれば手が届く“半歩先”のライフスタイルを提案するサザビーリーグならではの、「半歩先の働き方プロジェクト」とは? プロジェクトを牽引してきた、人事・労務室の副島 志野様(2018年4月より広報課)にお話をうかがいました。
2016年より2年にわたって取り組んできた「半歩先の働き方プロジェクト」は、「小売業であっても、働き方に工夫がある職場にしよう」がコンセプト。“育児や介護を理由にキャリアを諦めない”というメッセージを発信してきました。
グループ全体の従業員は約8,000人、そのうち8割が女性です。社長の角田のもと、当初は「働く女性支援プロジェクト」という名称でスタートしましたが、「女性が支援してもらいたいことは何か?」とグループ各社にヒアリングをしていく中で、さまざまな現状が見えてきました。
特に女性が多い現場(店舗)で多く聞かれたのは、「評価や教育システムについての不公平感は感じないが、労働時間が長い、有給が取りづらい」といった不満でした。小売業ならではの問題ではありますが、「女性だから」というよりは、個人の「働き方」の問題ではないかということに気がついたんです。
私たちがお客様に提供しているのは、すごく尖ったものとか、ものすごく高いものではなく、ちょっとがんばれば手が届く贅沢。それを「半歩先のライフスタイル」と呼んでいます。自分たちの働き方についても、いきなりIT企業のような先進的な取り組みはできませんが、まずは半歩。小売業でも、もう少しがんばればちょっとずつ前進できるのではないかと考え、“半歩先”の働き方を目指そう、と。
これまでの働き方を見直し、新しい考え方・やり方を受け入れられる土壌をつくっていかないと、業界全体の人手不足は深刻ですし、これから先も人は集まってきません。社内外に向けて良い影響を与えられるようなプロジェクトを目指して、名称を変えて再スタートを切りました。
プロジェクトの骨子は、「採用」、「キャリア支援」、店舗を中心とした「労働環境の改善」、「意識醸成」の4つ。「キャリア支援」の中で、「育児」と「介護」をしている人へのサポートを行ってきました。具体的な施策としては、法人契約による保育施設の確保や早期復職支援制度(祝い金を支給)のほか、時間限定社員の労働時間の選択肢を増やしたり、介護セミナーを開催したりしました。
特に「介護」は、働き方を考える上で切っても切れない問題であるのに、表面化しづらいという側面があります。本社社員の平均年齢は40代、ショップスタッフの平均年齢は30代。年齢差はありますが、実際に介護離職は増えていますし、一度離職すると戻りにくいという現状を知らずに辞めてしまっている。それは会社としてもとても大きな損失になります。
そこで、ベネッセの「Work&Care」サービスを利用し、介護についてのセミナーを開催しました。2016年度の「仕事と介護の両立セミナー 基礎編」には、グループ会社の人事担当者と本社勤務社員あわせて約90名が参加。任意参加のセミナーでしたが予想よりも参加者が多く、それだけみんなの関心が高いことがうかがえました。
2017年度は本社勤務社員を対象に、基礎編と応用編を4回(計5回)開催したところ、こちらも、のべ約100名が参加しました。コンテンツを5つに分けて、希望するものに参加する形式にしましたが、いずれも管理職にこそ聞いてほしい内容でした。プロジェクトを進めていく中で、約250名いる管理職以上の人間が、制約条件のあるなしに関わらず多様化している社員の価値観を受け容れていかないと働き方はなかなか変わらないと感じていましたし、介護に直面している社員をどのようにサポートし、マネジメントしていくのか考えておく必要があるからです。
セミナー後のアンケートでは、「最初の相談窓口として地域包括支援センターを知ることができてよかった」「仕事を辞めなくても両立できるのではないかと感じた」「講師の方が想いを持っている人が多く、現場での経験をもとにした話が役に立った」など、参加してよかったとの声が多数でした。
セミナーを導入するにあたっては他社のサービスとも比較しましたが、応用編を持っているのはベネッセのプログラムだけでした。時間も長すぎずちょうど良いですし、自社施設での豊富な事例を盛り込んだコンテンツの幅広さや、完全カスタマイズのプログラムが決め手でした。そして何より、「自分の仕事と介護について、自分でマネジメントする」という考え方がベースにあるのがよかったと思っています。介護の問題は、会社がなんとかしてくれるわけではないので、会社の提供する制度を利用しながら自分で組み立てていくしかありません。
最後のセミナーで取り上げた「お金の話」では、「介護は情報戦」であるというお話がありました。知らないと自己負担が多くなるケースもあります。「介護休業法」がどのような制度なのか、介護についてどこに相談すればいいのかなど、個人で調べるのは大変なので、このようなセミナーを活用してもらうのはもちろん、会社でも情報を整理・提供していきたいと思いました。
2年前に比べて、確実に「働き方を変えていかなければならない」という意識が強まってきたと感じます。ですが、関係会社、社内カンパニーを含めると16社もあるので、温度差があるのも事実です。有給休暇の取得率アップの取り組みがうまくいった会社もあれば、今のままでいいという会社も。ただし、「働き方」は会社の成長ステージなどによって異なるので、現在は「法令を遵守しながら、会社ごとに工夫していこう」というフェーズに入っていると思います。
「半歩先の働き方プロジェクト」は2年でいったん一区切りとなりましたが、会社としては引き続き「仕事だけじゃない、ライフも包括したキャリア」を考えるきっかけを提供し、制度として整備していく予定です。特に店舗のスタッフは、日々の忙しさに追われて考える余裕がないのが現状ですが、長いスパンでキャリアや人生を考えられるようにサポートしていきたいですね。
「働き方」を考えることは、自分の生き方を考えること。「介護」も然りですね。ですが、「介護」の問題は「言いづらい」「終わらない」「親が老いていく変化を受け止められない」など、ネガティブに捉えられがち。「Work&Care」のセミナーを通じて、「介護はネガティブなことではない」というメッセージを発信してくれたことが、すべての参加者にとって心強かったはずです。
弊社は、自社のブランドが好きで入社してきた人が多く、ロイヤリティの高さに強みがある。一方で、日々の忙しさに追われてキャリアを諦めたり…という残念な現状もあります。「半歩先のライフスタイル」を提唱している企業なのに、社員のライフスタイルが充実していなかったらダメだと思うんです。会社と社員、それぞれの「フェーズに合った働き方」のための工夫をしていくことが、私たちの「半歩先」なのだと思っています。