METHOD

制度が利用されない理由とは?
人事がまず取り組むべき
“社内の介護実態把握”

2026年7月8日

制度は整えているのに、なぜ活用されないのか
近年、多くの企業で介護との両立支援制度の整備が進んでいます。育児・介護休業法の改正もあり、「制度は一通り整っている」という企業も少なくありません。 しかし一方で、現場からは次のような声が聞かれます。
• 制度を用意しているのに利用者が少ない
• 従業員が何に困っているのか見えてこない
• 自社の施策が本当に有効なのか分からない
この背景には、「制度の有無」と「現場の実態」の間にギャップがあることが挙げられます。
介護支援は、制度を整えるだけでは機能しません。重要なのは、「誰が・どのような状況で・何に困っているのか」を把握することです。本記事では、介護支援の難しさの本質と、なぜ実態把握が不可欠なのか、さらに具体的な進め方について解説します。

01.介護支援が難しい理由:見えない・読めない・広がる課題

介護支援の難しさは、「課題が見えにくく、把握しづらいまま、静かに広がっていく」という構造にあります。

① 表面化しない“潜在層の多さ”
介護はプライベートな問題として扱われやすく、職場に共有されないケースが多く見られます。
さらに、

  • まだ本格的な介護ではない
  • 家族の健康に不安はあるが困ってはいない
  • 主たる介護者ではない

といった“グレーゾーン”の層が非常に多く存在しています。

こうした潜在層は、企業側から実態を把握することが難しく、個別の状況に応じた情報提供や制度周知のアプローチが十分に届きません。
その結果、本来活用できる支援制度が認識されないままとなり、利用に至らないケースが多く見られます。

さらに、実際に課題が顕在化した時点では、すでに負担が大きくなっており、そこから初めて制度を検討するという後手の対応になりやすい点も課題です。

② 相談が起きない・起きにくい構造
介護はセンシティブなテーマであり、そもそも話すべきテーマではないと感じてしまう方もいるなど、職場で話しづらいという特性があります。
実際の現場では、

  • 相談しても理解されないのではないかという不安
  • 制度があっても使いづらい雰囲気
  • 上司や同僚への遠慮

といった心理的ハードルが存在し、「困っていても相談しない」という状態が多く発生しています。

③ 課題が複雑で、個別性が高い
介護は一人ひとり状況が異なり、画一的な対応が難しい領域です。
例えば、

  • 両親ともに要介護
  • 遠距離介護
  • 育児とのダブルケア
  • 本人の健康課題との重なり

など、複数の課題が同時に発生するケースもあります。
このように状況が複雑かつ個別性が高いため、自身に適した制度を判断することが難しく、結果として「制度はあるが使われない」状況が生まれやすくなっています。

④ 企業側にとって“対象が見えない”
介護は「誰が対象者か分からない」という構造的な課題があります。
その結果として、

  • ニーズが把握できないまま制度設計
  • 周知しても必要な人に届かない
  • 施策の効果が見えない

といった状態に陥りやすく、結果として「制度はあるが機能していない」という状況につながります。

02.なぜ「実態把握」が必要なのか:支援を“機能させるための起点”

こうした課題を解決する鍵となるのが、社内の実態把握です。

① 見えない課題を可視化する
介護で困っている、また不安に感じているという社員のニーズが表面化しているのはごく一部です。
実態把握を行うことで、

  • どの程度の潜在層がいるのか
  • どんな課題を抱えているのか
  • どの層にどんな支援が必要なのか

といった「見えていなかった課題」が明らかになります。

② 施策の根拠を明確にできる
実態データがあることで、施策が「なんとなく」ではなく「根拠に基づいたもの」に変わります。

  • どの層にリスクがあるか
  • どの課題が優先度高いか
  • どんな施策が有効か

といった判断が可能になり、介護離職防止や人的資本経営とも結びついた施策設計ができます。

③ 支援を“継続的な取り組み”に変える
実態把握は一度行って終わりではありません。
定期的に実施することで、

  • 施策の効果検証
  • 社内変化の把握
  • 改善施策の立案

といったPDCAが回り、モニタリングをし続けることで、支援が「一過性」ではなく「継続的な取り組み」として定着します。

④企業文化を変える起点になる
さらに重要なのは、実態把握が単なるデータ取得にとどまらない点です。
従業員の声を拾い、施策に反映し、その背景を共有することで、

  • 「声が届いている」という実感
  • 会社への信頼感やエンゲージメントの向上
  • 制度活用への心理的ハードル低下

といった変化が生まれ、風土改善にもつながります。

03.実態把握の進め方とポイント

では、実際にどのように実態把握を進めればよいのでしょうか。
ポイントは「課題の構造を分解して捉えること」です。

① 課題は4つの観点で整理する
実態把握では、以下のような観点で課題を整理することが重要です。

  • 介護に関する価値観、意識、制度や両立方法の理解度(リテラシー)
  • 介護そのものの負担(介護課題)
  • 働き方の柔軟性(勤務体制)
  • 相談しやすさ(職場風土)

これにより、「どこにボトルネックがあるのか」が明確になります。

② アンケートによる“見える化”を起点にする
特に重要なのは、アンケートなどを通じた可視化です。

  • 潜在層の把握
  • 課題の深さ・広がりの把握
  • 心理的ハードルの把握

といった定量・定性の両面からの分析が可能になります。

③ 自社のフェーズを見極める
介護支援は段階的に成熟していくものです。

  • 制度整備の段階
  • 周知・定着の段階
  • 風土醸成の段階

といったフェーズによって、必要な施策は異なります。
そのため、まずは「自社がどの段階にいるのか」を把握することが重要です。

④ 制度・風土・リテラシーをバランスよく整える
最後に重要なのが、支援は1つの施策だけでは機能しないという点です。

  • 制度の整備・周知
  • 風土づくり
  • 介護リテラシー向上

この3つは相互に補完し合う関係にあり、どれか一つだけでは不十分です。

04.まとめ:まずは“見える化”から始める

介護支援において、多くの企業が陥りがちなのは
「制度は整えた=支援できている」
と考えてしまうことです。
しかし実際には、

  • 課題が見えていない
  • 対象者が分からない
  • 施策が機能していない

という状態にとどまっているケースも少なくありません。

実態把握は、こうした状況を打破する最初の一歩です。
制度を「あるだけのもの」から「機能する仕組み」へ変えていくためには、まず現状を可視化することが不可欠です。

一方で、実態把握は単にアンケートを実施すれば完結するものではありません。

  • どのような設問設計にするか
  • どの層にどのようにアプローチするか
  • 回収したデータをどう分析し、施策につなげるか

といった点で、専門的な知見が求められる場面も多くあります。

そのため、自社だけで進めようとすると「調査はしたが活用できていない」「結果が施策につながらない」といった課題に直面するケースも少なくありません。

こうした中で、外部の専門サービスを活用することも一つの選択肢です。
例えば、当社では実態把握調査の設計から実施、分析、そして結果を踏まえた施策提案までを一貫して支援しています。単なる調査にとどまらず、「どの課題にどの施策を打つべきか」までを両立支援の専門家が、課題に応じた最適な施策を包括的に導き出せることが特徴です。

すべてを自社内で完結させるのではなく、必要に応じて外部の知見を取り入れることで、調査設計や分析の精度が高まり、的確な施策につながります。結果として、施策の“打ち手の精度”を高め、無駄のない投資につながるという意味でも、費用対効果の高い取り組みを実現していくことが可能となります。

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