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【特別インタビュー】
「見えない介護」のリスクを可視化 データが導く、真の両立支援と風土改革への最適解

2026年6月9日

「日本の人事部」にて、弊社の井木・金子が仕事と介護の両立支援に関してインタビューを受けました。育児・介護休業法の改正を背景に、企業が直面する介護課題や、制度整備だけでは不十分な理由、自社のリスク状況を把握するための「リスクアセスメントツール」の活用方法についてお話しています。人事部門が取り組むべき風土改革と、持続可能な組織づくりに向けた具体的なアプローチもご紹介していますので、ぜひ施策の参考にしてください。

01.育児・介護休業法改正がもたらす企業へのインパクトと現状

――2025年に育児・介護休業法の改正案が施行され、企業には、従業員の仕事と介護の両立支援に対する姿勢が大きく問われています。まずは法改正の主なポイントと、企業を取り巻く現在の状況についてお聞かせいただけますでしょうか。

井木

法改正のポイントは、大きく分けて三つ存在します。一つ目は、介護に直面する従業員が増加する中で、介護離職を防ぐための「制度の周知と意向確認」が義務化された点です。従業員から申し出があった際、企業側から介護休業などの制度を周知し、利用の意向を確認する対応が求められます。

二つ目は、40歳などのタイミングにおける「早めの情報周知」です。介護保険料の支払いが始まる時期に合わせて、介護保険制度の仕組みや、介護が始まった際に活用できる社内制度を事前に周知する取り組みが求められています。

三つ目は「雇用環境の整備」です。従業員が制度を利用しやすい職場環境を整える取り組みが明記されました。

企業からの問い合わせ件数は年々増加していましたが、改正案が国会で議論されていたタイミングでは、前年度の約2倍にまで達しました。これまで手をつけていなかった施策であるため、「何から始めればよいのか分からない」という声が多く寄せられています。「まずは研修を実施してもらえないか」「ハンドブックを作成したい」といった、具体的な施策に関するご相談も増加している状況です。企業側の意識が大きく変わりつつあることを実感しています。

金子

一方で、法改正があったから最低限の対応をしよう、という表面的な動きにとどまっている企業も少なくありません。法改正の本来の目的は、介護が始まる前に適切な情報を届け、介護離職を防ぐとともに、仕事と介護の両立がしやすくなる環境を整えることにあります。しかし、制度を周知するだけで、従業員が働きやすい風土づくりや多様な働き方の整備にまで踏み込めていない企業が多く見受けられます。制度について発信していても、内容が本当に従業員に届いているかを測定できていないケースが多数存在します。

――制度を整えるだけでは、十分な対策とは言えないわけですね。仕事と介護の両立支援に取り組む上で、人事部門が押さえておくべき重要なポイントは何でしょうか。

井木

介護支援においては、育児支援との違いを正しく理解することが不可欠です。育児の場合、子どもがいることを隠して働く人は少ないと考えられますが、介護の場合は、周囲に一切打ち明けずに働いている「隠れ介護者」が数多く存在します。また、介護は始まりが分かりにくいため、無自覚のまま介護に突入している方もいます。

さらに、介護の内容は多種多様です。別居での遠距離介護や、認知症の介護など、同じ「要介護3」であっても、直面する課題は一人ひとり異なります。育児支援と同じアプローチで進めようとすると、介護特有の多様な課題に対応しきれず、つまずく原因となります。

国が定める制度に加え、法定以上の制度を整備している企業も増えていますが、制度の拡充だけで従業員が安心できるわけではありません。働きながらどのように介護と両立していくのかという「両立のノウハウ」を同時に提供しなければ、いざ介護が始まった際に機能しません。制度の周知と、両立のための継続的な情報発信という両輪を回すことが重要です。

02.介護の「見えにくさ」と多様性が生む両立支援の壁

――かつては「親の介護は子どもがするもの」という価値観が主流でしたが、従業員の意識は変化してきているのでしょうか。

井木

セミナーを実施すると、「親の介護は子どもが担うべき」という固定観念を持つ方は依然として多くいらっしゃることがわかります。ずっとそばにいてあげなければならないという意識が強いと、仕事との両立は不可能だと感じてしまう傾向にあります。

しかし、介護は一人で抱え込むものではなく、チーム体制で取り組むべき課題です。地域の社会資源や専門家のサポートをどれだけ活用できるかが両立の鍵を握ります。ただし、家族でなければ対応できない「名前のつかない介護業務」も存在します。例えば、実家の郵便物を毎週確認しに行くことや、新聞の配達を止めるといった細かな手続きなど。そうした現実的な課題への関わり方までイメージできていないと、両立に対する意識は高まりにくいと言えます。

――介護離職の実態についてはいかがでしょうか。離職者数は減少傾向にあるのでしょうか。

井木

定期的な調査では、介護離職者は年間約10万人と言われています。数字自体が大きく減っているわけではありませんが、親の高齢化に伴い、介護に直面する母数自体は増加しています。母数の増加を考慮すると、社会全体で両立支援の重要性が浸透してきている側面もあると捉えています。

――人事部門が両立支援策を進める中で、陥りがちな点や注意すべき点はありますか。

井木

先ほど金子が申し上げた通り、制度を伝えて終わりにしてしまうケースが最大の注意点です。法改正の義務要件を満たすだけで満足してしまい、従業員が抱える介護への不安やニーズ、社内の両立に対する意識がどの程度醸成されているかといった実態を把握できていない企業が多く見られます。エビデンスに基づき、自社に最適な施策を打っていくプロセスが欠如している点は見過ごせません。

金子

私はセミナー講師や個別相談員として多くの従業員と接していますが、セミナーに参加する方や制度を利用しているような積極的な方の実情は見えても、隠れ介護者や無自覚な層の実態は外部からは見えません。また、実際に介護が始まっている切実な当事者と、まだ介護を意識していない周囲の従業員との間には、温度差が明確に存在します。温度差を埋め、全員が両立を理解し合える風土を作るためには、企業全体の実態を深く可視化するアプローチが不可欠です。

03.組織と個人の課題を可視化する「リスクアセスメントツール」

従業員の実態や温度差を把握するための解決策として、貴社が開発された「リスクアセスメントツール」について詳しくお聞かせください。開発の背景にはどのような課題があったのでしょうか。

井木

ある企業から、社内の実態調査を実施できないかとご相談を受けたことが開発のきっかけです。当時は一般的なアンケートツールを使用して調査を行っていたのですが、個別の回答は確認できるものの、課題の傾向やリスクの分布を全体像として捉えることが難しく、社内にどのような課題を抱えた層がどれだけ存在するかを人事部門が視覚的に、かつ瞬時に把握できる専門的なツールが必要だと考え、開発を進めました。

――「リスクアセスメントツール」の主な特徴と、測定できる具体的な項目について教えてください。

金子

社内で実施するアンケートや、一般的な実態把握調査は、介護をしている個人の状況や社内の介護者数を測定することに主眼が置かれています。当社のリスクアセスメントツールは、「個人の課題」だけでなく「組織側の課題」も同時に分析できる点が最大の特徴です。組織と個人の両軸から測定を行うことで、課題が組織側にあるのか、個人の負担感として現れているのかを相対的に見極め、重点的に対処すべき領域を一目で把握できるようになっています。特に働きかけるべきターゲット層が明確になるため、効果的な人事施策の立案に直結します。

ベネッセシニアサポートの「リスクアセスメントツール」の特徴 「個人の課題」×「組織の課題」両面から可視化することで課題の優先順位や対象が整理され、打ち手が明確に。

具体的な測定項目としては、横軸に「個人課題」、縦軸に「企業課題」を設定しています。個人課題では、遠距離介護や多重介護といった「介護負担の大きさ」に加え、介護保険制度や社内制度に関する「リテラシー」を測定します。企業課題では、「職場の風土」や「働き方の柔軟性」といった側面を評価します。

これら四つの軸を基に、回答内容を総合的に整理し、一定の基準に基づいてリスクの高低を判定します。分析結果は複数のタイプに分類され、個人要因・職場要因それぞれの傾向を大まかに把握できる構造になっています。そのうえで、大きくいくつかのゾーンに分けて可視化し、課題の方向性を捉えやすくすることで、企業が次に取るべきアプローチを検討しやすい形で提示します。

ベネッセシニアサポートの「リスクアセスメントツール」の特徴 明らかになった組織の実態と課題をもとに、施策の優先度・目標・スケジュールまで具体的に提案→サポート

――従業員側の回答プロセスはどのようになっていますか。負担を感じずに回答できる仕組みなのでしょうか。

金子

従業員の方には、ウェブ上で匿名のアンケートに回答していただきます。介護は個人のプライバシーに深く関わるため、個人が特定される状態では率直な回答を得にくいという背景があります。質問の多くは選択式で質問数もできる限り抑えているので、5分程度で負担なく回答できる設計にしています。

――回答することで、従業員自身にもメリットや気づきはあるのでしょうか。

井木

アンケートに回答するプロセス自体が、自身の親のことや将来の介護について客観的に見つめ直す機会となります。「こんな状況になったらどうなるか」と具体的な質問に答えることで、潜在的な不安や懸念が明確になり、「仕事とどう両立するか?」という意識が顕在化するきっかけにもなります。

金子

介護の入り口に立っている方にとっては、アンケートを通じて「準備を始めなければ」という意識の変化が生まれます。実家に帰って親と話をしてみよう、地域包括支援センターの場所を調べてみよう、といった具体的な行動変容につながるきっかけとして機能します。

04.キーパーソンは管理職。実態把握から始まる風土改革

――可視化されたデータに基づき、企業にはどのような提案を行っているのでしょうか。

金子

抽出された課題とターゲット層を分析し、離職を防ぐために最優先で取り組むべき短期目標と、自律的に両立できる環境を目指す長期目標を設定し、ステップに分けたプランをご提案します。

例えば、ある企業では、調査の結果「管理職の介護リテラシーが著しく低い」という課題が明確になりました。従業員が介護に直面した際、最初に相談を持ちかけるのは直属の管理職です。管理職のリテラシーが不足していると、適切なサポートができず、部下の離職リスクが高まります。そこで、まずは管理職全員が社内制度と介護の基本知識を習得するための研修を実施し、次のステップとして現場の風土改善に取り組むプランをご提案しました。

井木

先日、管理職向けのセミナーに登壇した際、冒頭でリスクアセスメントツールの測定結果を提示しました。自部門の部下たちがどれほど介護で困っているか、5年以内にどれくらいの人数が介護離職の危機に瀕しているかを定量的なデータで示したところ、管理職の方々の目の色が劇的に変わりました。採用難の現在、優秀な部下を失わないために、自身がどのようなマネジメントとコミュニケーションを行うべきかを真剣に考える強力な動機づけとなったようです。

――現場で実際に両立に苦労し、業務のパフォーマンスが低下している従業員への対応についても提案されているのでしょうか。

金子

はい。別の企業では、すでに仕事に支障が出ている「現在進行形の介護者」が多数存在することが判明しました。中抜けや残業制限により、従来のパフォーマンスを発揮できず、退職を検討し始めている層です。この場合、風土改革や管理職研修も重要ですが、まずは直面している当事者が離職せずに働き続けられる具体的なアプローチを最優先の課題として位置づけ、緊急度の高い支援策をご提案しました。

――人事部門からは「何度周知しても従業員に制度が伝わらない」という悩みをよくお聞きします。効果的な周知方法はあるのでしょうか。

井木

介護というテーマは、従業員からすると「できれば直面したくない、避けたい話題」です。そのため、単に「介護休業制度の説明会」と銘打っても、関心を引くのは困難と言えます。

効果を上げている企業は、従業員の興味を喚起する工夫を凝らしています。例えば、ダイバーシティ推進の一環として、テーマ別のイベント形式で実施する方法です。「第1回はLGBTQ、第2回は育児、第3回は介護」といった形で、連続性のある企画として展開すると、参加へのハードルが下がります。

また、社内で実際に仕事と介護を両立している従業員に登壇してもらう「パネルディスカッション形式」のセミナーも好評を博しています。制度をどのように組み合わせ、上司とどうコミュニケーションをとったかという生の声は説得力があり、「お互い様の風土が大切だ」という意識の醸成に直結します。

さらに、イントラネットに情報を掲載するだけでなく、イラストや漫画を用いた「ハンドブック」を配布する企業も増えています。手元に置いて家族と一緒に読めるため、介護に直面する前の「心の準備」を促すツールとして大変有効です。

05.人事部門の負担を軽減し、戦略的な両立支援を実現するために

――「リスクアセスメントツール」を導入した企業の人事部門からは、どのような反響が寄せられていますか。

井木

「これまで懸命に情報を発信してきたつもりだったが、驚くほど届いていなかった」という気付きを得るケースが多く見られます。また、管理職層や40代・50代の従業員がどれほど介護予備軍となっているか、無自覚な層がどれだけ隠れているかが可視化されることで、課題の解像度が上がります。単に制度を周知するのではなく、誰に向けてどう発信すべきか具体的な戦術が見えてきた、という声を多数いただいています。

金子

近年、企業が実施するアンケート調査の数は増加傾向にあります。従業員も調査疲れを感じているかもしれませんが、介護に関する実態調査を行うこと自体が、「会社は自分の将来の不安まで考えてくれている」という安心感につながります。エンゲージメントを向上させるポジティブなメッセージとしても機能します。

――一度調査を実施して終わりではなく、継続的な取り組みが重要になりそうですね。

井木

その通りです。一度測定して満足してしまう企業が多い点は、大きな課題と捉えています。従業員の年齢構成は毎年変化し、新たに介護に直面する人が絶えることはありません。実施した施策が本当に効果を発揮しているかを確認するためにも、定点観測に基づくPDCAサイクルの構築は不可欠です。企業の状況や予算に応じて、適切な測定のタイミングや改善アプローチをアドバイスしています。

金子

従業員の状況は、私たちが想像する以上に多様化し、複雑化しています。親の介護だけでなく、配偶者の介護や、育児と介護のダブルケア、自身の病気治療と介護の並行など、直面する困難は一様ではありません。人事部門がすべての個別事案に対応することは現実的ではなく、負担も限界に達しつつあります。

だからこそ、外部の専門家の知見を有効に活用してほしいと思います。当社は、長年の介護事業で培った実績と、有資格者による質の高いサポート体制を有しています。実態把握からプランニング、具体的な施設の紹介まで一貫して支援できる点は、当社の強みです。

――最後に、読者である人事担当者や経営層に向けてメッセージをお願いします。

井木

介護は、ある日突然、寝たきりの状態から始まるわけではありません。実家への帰省頻度が増えたり、親のことを心配する時間が増えたりする頃からすでに介護は始まっています。この時期に適切な情報を得て、心の準備をしておくことが、いざという時のパニックを防ぎ、離職を回避する最大の防波堤となります。

企業が従業員に向けて行う情報発信の意義は、まさにこの「気づき」を提供することにあります。介護は個人の問題として片付けるにはあまりに専門的で、一人で抱え込むには重すぎるテーマです。制度の整備と組織風土の改革を両輪で回し、継続的に支援のメッセージを発信し続けてください。それが、従業員のキャリアを守り、企業の持続的な成長を確保するための最適解となるはずです。

金子

介護離職者が出たからといって、ただ制度を周知するだけでは、頭痛がするからとりあえず頭痛薬を飲むような対症療法に過ぎません。根本的な課題を解決するには、「リスクアセスメントツール」などを活用し、まず自社の組織の状態を「精密検査」することが不可欠です。データに基づいた客観的な実態を把握することで、自社が本当に取り組むべき課題を見極めてほしいと考えています。

法改正への対応をはじめ、人事部門が抱える業務はますます多岐にわたっています。社内のリソースだけで完璧な両立支援体制を構築しようとせず、私たちのような専門家を積極的に頼ってください。データに基づいた客観的な実態把握を通じ、自社が本当に取り組むべき課題を見極め、一人ひとりの従業員が安心して働き続けられる組織づくりを共に進めていきましょう。

サービス概要

「Work & Care」
ベネッセシニアサポートのWork&Careでは、「介護・育児・健康不安」を理由にキャリアを諦める人をゼロにすることを目指し、従業員が自律的に課題をマネジメントし、仕事と両立できるよう支援します。
特に、仕事と介護の両立支援においては、介護サービス事業を30年以上展開してきたベネッセスタイルケアグループのノウハウをもとに、実態把握調査やセミナー、オンライン動画、個別相談など、企業の課題やニーズに即した多様なサービスを提供。「使える知識の習得」「個別の課題解決」「啓発・風土醸成」を重視したアプローチで、従業員が自律的に課題をマネジメントできるようエンパワメントします。