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【特別インタビュー】
5年以内に4割が介護当事者に?「仕事と介護の両立」は待ったなしの経営課題

2026年3月31日

「日本の人事部」にて、弊社部長の井木が仕事と介護の両立施策に関して、インタビューを受けてきました。企業が直面する介護課題や法改正のポイント、「風土改革」の課題、管理職が果たすべき役割について詳しくお話しています。ぜひ施策の参考にしてください。

01.介護は個別性高く「100人いたら100通り」

――企業における「仕事と介護の両立」は、経営課題の一つとして広く認識されています。働く人を取り巻く環境について、どのようにお考えでしょうか。

井木

少子高齢化が急速に進む中で、労働力人口の減少は避けられない状況です。企業にとっては、新卒・中途採用ともに大きな課題になっており、いかに今いる従業員にエンゲージメントをもって自社で長く活躍してもらうかという点は、最重要のテーマの一つと言えます。
『就業構造基本調査』のデータをもとにした推計によると、40~50代の14人に1人がワーキングケアラーとされていますが、実際には介護が始まっていることを自覚されていない方も多くいるため、拾い切れていない現状があります。一方で、自覚していない介護者も洗い出せる弊社の実態把握サービスを利用したお客様のデータでは、介護が始まっていることを自覚できていない方も含めると、約半数近くもの従業員が何らかの形で親の介護・支援に関わっている企業もあります。
また、同データでは、多くの企業で5年以内に介護に直面する可能性がある方の割合が、約40%前後と大きな割合を占めるケースが見られます。従業員の約40%がパフォーマンスの低下や離職のリスクにさらされる可能性がある、ということです。これは人的資本経営の観点からみても大きなリスクであり、事後対応では間に合いません。
多くの日本企業では、従業員の平均年齢が上昇し、組織の高齢化が進んでいます。従業員の年齢構成を見ると、ボリュームゾーンはいわゆる「団塊ジュニア世代」で、50代前後の層です。この層が今、親の介護に直面する時期に差し掛かっています。

今後ますます増える ワーキングケアラーへの対策は喫緊の課題 40~50代の従業員のうち14人に1人がワーキングケアラー 従業員の約40%は5年以内に介護に直面するという企業が多数 育児×介護のダブルケアの数も増加 2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となった今、高齢化はますます加速 要介護者の増加と比例して、ワーキングケアラーの数も急増する見込み

――50代前後は管理職として組織の中核を担っていることも多い世代ですね。

井木

その通りです。また、その少し下の世代でも、育児の真っ最中であったり、不妊治療やさまざまな病気の治療と仕事の両立に悩んでいたりする人もいます。介護に限らず、多くの従業員が何かしらのプライベートな課題を抱えながら働いているのが現状です。
中でも介護は「100人いれば100通りある」と言われるほど、個別性が高いもの。認知症の親を同居で介護している方もいれば、遠方の親の介護のために毎月帰省して諸々の手続きなどをしている方もいます。さらに近年の特徴的な傾向として見られるのが「ダブルケア※」の増加です。晩婚化・晩産化に伴い、子育てと親の介護が同時期に重なる社員が増えています。育児といっても、乳幼児だけではありません。小中学生でも、部活や受験のサポートの必要があったり、思春期を迎えたお子さんのケアが必要なこともあったりします。こうした環境の中で、同時に親の介護にも直面するというケースもあります。
※ここでは育児と介護の両方を抱えていることを「ダブルケア」と定義します

――子育てと介護、両方の負担がのしかかるのは、精神的にも肉体的にも相当過酷な状況ですね。

井木

ダブルケアの当事者は約25万人いるというデータ※がありますが、一方で親のために少しでも時間を使い始めるようになる段階からを介護ととらえると、実際はこの数字以上に当事者がいると考えられます。一人ひとりがどう自身のキャリアと向き合い、両立させていくかは切実な問題です。同時に、企業や管理職にとっては、多様で複雑な課題を抱える社員をどうマネジメントし、支えていくかが厳しく問われています。

※内閣府『育児と介護のダブルケアの実態に関する調査』より

02.改正育児・介護休業法が企業に求める「三つの義務」

――課題が複雑化する中で、国も対策を急いでいます。改正育児・介護休業法について、企業が対応すべきポイントを教えていただけますか。

井木

厚生労働省の調査によると、現在、介護を理由に離職する人は年間約10万人に上ると言われています。同じく厚生労働省が実施した離職者へのアンケート結果を見ると、「会社の両立支援制度を知らなかった」「介護保険サービスの利用など、介護に関するあらゆる相談ができる地域包括支援センターという存在すら知らなかった」という声が多く挙がっています。
知識や情報の欠如が離職につながっている現状を重く見た国は、今回の法改正で、企業に対して、より能動的な働きかけを義務付けました。ポイントは、大きく分けて三つの義務化にあります。
一つ目は「制度の周知と意向確認」の義務化です。「家族の介護に直面した」という申し出が従業員からあった場合、企業は速やかに自社の両立支援制度について説明し、制度利用の意向を個別に確認しなければなりません。これまでは社員が自ら調べなければならなかった情報を、企業側から提示する必要があります。
二つ目は「介護に直面する前の早い段階での情報提供」の義務化です。従業員が40歳に達する日の属する年度、または40歳に達した日の翌日から1年間、いずれかのタイミングで、介護に関する制度などについて情報を提供します。40歳という年齢は、介護保険料の支払いがスタートするタイミングであり、早い方であれば介護が始まる時期でもあります。介護保険制度がどういう仕組みで、どう役立つのか、社内にはどのような両立支援制度があるのかを、プッシュ型で届けることが求められます。
三つ目は「雇用環境の整備」の義務化で、非常に重要なポイントです。介護離職の理由として、社内に制度があっても「職場の制度が使いにくかった」「休みを取りづらい雰囲気だった」という声が多く挙げられています。
制度を作って終わりではなく、実際に制度を利用しやすい環境や風土にしていくために、研修の実施や相談窓口の設置、制度利用の事例共有、方針の周知など、いずれかの措置を講じることが義務付けられました。努力義務ではありますが、テレワークの推進なども含まれています。

――社内の風土改革が最も難しいように感じます。どのようなステップが必要でしょうか。

井木

ポイントとしては三つあります。一つ目は「利用しやすい制度を整備し、しっかり周知すること」。二つ目は「介護保険制度の仕組みなど、基本的な介護の情報発信を通して従業員の介護リテラシーを高めること」。三つ目は「誰もが介護や育児など両立する可能性を見越して、両立しやすい風土醸成をすること」です。

両立支援の取り組みにおいては3つのバランスが大切 支援制度の整備・周知:利用しやすい制度の拡充福利厚生の整備 制度や窓口の周知 社内風土醸成:管理職への支援 従業員全体への情報提供 コミュニティの構築 従業員の介護リテラシー向上:介護の基本知識の習得 個別の課題解決への対応

多くの方が「介護は家族がやるべきもの」「親の面倒は子どもが見るべきだ」という固定観念に縛られています。その結果、自らが「プレイヤー」として介護を抱え込んでしまい、仕事との両立が破綻してしまうのです。
弊社のセミナーでは、そういった意識を根本から転換し、「介護はプロ(専門家)に任せていいもの」「自分は介護を『マネジメント』する立場になるべき」と伝えます。「誰もが当事者になり得る」と認識し、遠慮せずに外部サービスを使って良いのだと理解してもらうことが、両立可能な風土を作る第一歩となります。
介護リテラシーを向上し、風土を変えることは、一朝一夕でできることではありません。地道に、情報発信を続けることがポイントです。

03.両立支援の第一歩は正確な実態把握

――法改正をきっかけに、多くの企業が仕事と介護の両立支援に乗り出していますが、現場にはどのような課題がありますか。

井木

私たちは2015年に両立支援事業を開始して以来、10年ほど企業の支援を行ってきましたが、情報の周知はある程度進んできたと感じています。情報周知を進めてきた企業にとって、最終的な課題として残るのは、やはり「風土」の壁です。
一方で、これから対策を始めようとする企業や、対策に乗り出したばかりの企業に見られるのが、実態把握をせずに施策を打ってしまうケース。手探り状態で始めた結果、自社にどれくらいの介護当事者がいるのか、将来的にどれくらいの割合が介護に直面するのか、会社に何を求めているのかを把握せずに進めてしまい、施策が空回りして根本的な解決に至らないことがあります。

――介護は育児と違って表面化しにくく、実態把握が難しいと言われます。その背景には何があるのでしょうか。

井木

介護は非常にセンシティブな問題です。家族のプライベートな話ですし、親の老いや認知症といった状況を「認めたくない」「治るのではないか」という心理も働きます。「キャリアに傷がつくのではないか」「重要な仕事を任せてもらえなくなるのではないか」という懸念を抱き、会社に報告したくないと考える人も少なくありません。また、育児と違い、介護は始まりがわかりにくいこともあり、本人も介護が始まっていることに気づいておらず申告していないケースもあり、そこに「周囲に迷惑をかけたくない」という日本人特有の気質も相まって、実態が見えづらくなっているのです。

――そうした潜在的なニーズを掘り起こし、実効性のある施策につなげるためには、どのようなアプローチが有効でしょうか。

井木

まずは正確に自社の実態を把握することが第一歩です。厚生労働省が公開している「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査」を活用するのも一つの手です。ただ、アンケートを実施することはできても、出てきた結果を分析し、効果的な施策に落とし込むことは簡単ではありません。そのため、私たちのような専門機関に依頼して、調査から分析、継続的な施策の提案までを一貫して行うのが有効です。
重要なのは、アンケートを取りっぱなしにせず、結果に基づいて具体的なアクションを起こすこと。エンゲージメントサーベイやストレスチェックなど、すでに多くの調査・アンケートを実施している場合、従業員の負担が増えることが心配かもしれませんが、それ以上に「会社はここまで考えてくれている」という安心感やエンゲージメントの向上につながることが期待できます。

ベネッセシニアサポートの「仕事×介護両立支援サービス」 リスクアセスメントツール(社内実態把握) 介護に関する社内の実態を調査し課題がどこにあるかを明確にすることでポンポイントで課題へアプローチ 少ない労力で効果の高い支援を行うことができるツールです

――貴社は制度設計のアドバイスも行われているそうですが、企業からはどのような相談が多いですか。

井木

よくあるのが、「介護休業の日数を法定以上に拡充すべきか」というご相談です。休みを増やすことは、社員が介護をする上でプラスに働くと思うかもしれませんが、必ずしもそうとは限らないとお伝えしています。介護休業が長すぎると、従業員が介護の「プレイヤー」になってしまい、復職が難しくなるリスクがあるからです。毎日続く介護生活の中で、長期の休みが万能な解決策になるとは限りません。
もちろん、遠方の実家の片付けなど、まとまった休みが必要なケースもあります。ただ、一律に休業期間を延ばすよりも、短時間勤務やフレックス制度、テレワーク、時間単位の有給休暇など、柔軟な働き方を選べるようにする方が、多様な介護の形に対応でき、結果として両立につながると考えています。

04.管理職は「支援者」であると同時に「当事者」予備軍

――実際に制度を運用する上で、企業はどのようなポイントに留意すべきでしょうか。

井木

企業が最も留意すべきポイントは「管理職の制度理解と相談対応力」です。どれだけ制度が整っていても、直属の上司の理解がなければ絵に描いた餅になってしまいます。実際に、管理職が制度の内容や位置づけを十分に理解していなかったり、相談を受けた際の対応に不安を抱えていたりするケースが少なくありません。
管理職に求められるのは、部下から相談を受けたとき、まずは「傾聴・共感」する姿勢。そして、限られた時間や環境の中でどうすれば仕事と介護の両立を実現できるか、今後の働き方の見通しを一緒に考える「目線合わせ」です。
ただ、管理職自身もどう対応していいか分からず、良かれと思ってかけた言葉が「NGワード」になってしまい、部下がハラスメントと受け取ったり傷ついたりするケースもあります。また、管理職世代こそが、まさに親の介護に直面する年齢層でもあります。
管理職研修を行う場合は、部下のマネジメントスキルを学ぶ場であると同時に、自分自身が当事者になったときのための備えの場としての意味合いも持たせることが大切です。弊社の管理職セミナーでは必ず、当事者とマネジャー双方の立場で知っておくべき内容を伝えています。管理職が正しい知識を持ち、「お互い様」の風土を作ることができれば、心理的安全性が高まり、相談しやすい組織へと変わっていきます。介護に限らず、育児や病気治療との両立でも共通する重要なポイントです。

――具体的にはどのような両立支援策が効果を上げていますか。

井木

当社への問い合わせが増えているのが、パネルディスカッション形式のセミナーです。一般的な知識を学ぶ座学のセミナーも必要ですが、それだけでは介護を「自分事」として捉えにくい面があります。そこで、実際に社内で仕事と介護を両立している社員に、パネラーとしてリアルな体験談を語ってもらうのです。「どのタイミングで上司に相談したか」「制度をどう組み合わせたか」「仕事の進め方をどう工夫したか」といった生の声は、ロールモデルとして非常に説得力があります。
参加者へのアンケートを見ても、満足度が98%と非常に高く、フリーコメントには「同僚の話を聞いて両立のイメージが湧いた」「お互い様の風土が大事だと痛感した」といった熱量の高い感想が多く寄せられます。

――その他に、ユニークな取り組みはありますか。

井木

情報発信の手段として、あえてアナログな「ハンドブック」を作成する企業が増えています。特に、工場・店舗など社員一人ひとりにPCが貸与されていない環境では、イントラネット上の情報は届きにくいもの。手元に置いておける冊子は、家族と一緒に見ることもでき、非常に有効です。内容は企業ごとにカスタマイズしますが、文字ばかりではなく、イラストや漫画を多用したバージョンが人気を集めています。
介護はほとんどの人がいつか直面する人生の課題ですから、若いうちから読んでもらいたいという思いを込め、絵本のようなものも用意しました。配布しておくと、まだ当事者ではない社員もパラパラと見て、「心の準備」ができます。

ベネッセシニアサポートの「仕事×介護両立支援サービス」 両立支援ハンドブック(3種)両立する上で知っておきたい情報をコンパクトに凝縮。法改正で周知義務化されている事項の発信としても活用可能 対象者や目的に合わせて3種からお選びいただけます どんな方にも必要な情報を1冊に凝縮! スタンダード版 イラスト×解説つきで読みやすい 辞めないための7か条 両立×キャリアについても考えられる 介護ロードの歩き方

――貴社では、そうした制度設計から個人の相談まで幅広く支援されているのですね。

井木

ベネッセシニアサポートは、ベネッセスタイルケアグループの一員として、30年以上にわたる介護事業の実績と知見を持っており、特に施設介護事業を行っているのは大きな特徴だと思います。現場経験者や有資格者がセミナーや相談対応を行うため、信頼性が高いと自負しています。さらに、私たちは老人ホームなどの紹介業も行っているため、介護に直面した従業員の方に、具体的な施設の提案までスムーズにつなげられるのが大きな強みです。また、10年以上、企業と共に両立支援を共創してきた経験から、現場の声を取り入れた多彩なサービスと柔軟なカスタマイズ対応ができることも好評いただいている点です。

05.「パニック」を防ぐために、早期の準備を

――最後に、読者である人事担当者や経営者の方々へメッセージをお願いします。

井木

「介護が必要」と聞くと、寝たきりの親をイメージするかもしれませんが、介護にはいくつかの段階があります。一つ目は、弊社では「エントリー期」と呼んでいる、親のことが心配になり、実家に帰る頻度が増えたり、頻繁に電話で様子を確認したりするような時期です。自分の生活時間の中に、親のことを考える時間が増えてきたらもう介護に入り始めているのです。
二つ目は、本格的に介護が始まり、要介護認定の申請や介護サービスの導入など、対応すべきことが多い「初動期」。介護は、脳梗塞など急な入院を契機に介護が始まるケースもあれば、認知症の進行や生活機能の低下に伴い、徐々に介護サービスの導入が必要になるケースもあります。始まり方はそれぞれ違うため、必要な体制づくりも異なります。特に、急に始まったケースでは、何から手をつければいいかわからず、パニック状態に陥ることも少なくありません。離職を選んでしまいがちなのもこのタイミングです。そして、介護サービスなどを利用しながら、自身の仕事や生活とバランスを取っていく「両立期」に入ります。
最も重要なのは、エントリー期の備えです。親が元気なうちから情報を集め、家族で話し合い、心の準備をしておく。企業がセミナーなどで情報提供を行う意義は、まさにこのエントリー期の社員に気づきを与え、初動期でのパニックを防ぐことにあります。「自分は今、エントリー期にいる」と自覚するだけで、社員の準備に対する意識は大きく変わります。
介護は専門性が高く、社内のリソースだけで対応するのは困難です。外部の専門家の力も借りながら、点ではなく面での支援、制度の整備と組織風土改革を両輪で進める必要があります。そして一過性ではなく、継続的な情報発信を行ってください。それが社員のキャリアを守り、ひいては企業の持続的な成長を支えることにつながります。

サービス概要

「Work & Care」
ベネッセシニアサポートのWork&Careでは、「介護・育児・健康不安」を理由にキャリアを諦める人をゼロにすることを目指し、従業員が自律的に課題をマネジメントし、仕事と両立できるよう支援します。
特に、仕事と介護の両立支援においては、介護サービス事業を30年以上展開してきたベネッセスタイルケアグループのノウハウをもとに、実態把握調査やセミナー、オンライン動画、個別相談など、企業の課題やニーズに即した多様なサービスを提供。「使える知識の習得」「個別の課題解決」「啓発・風土醸成」を重視したアプローチで、従業員が自律的に課題をマネジメントできるようエンパワメントします。