日本生命グループのIT戦略を担う、ニッセイ情報テクノロジー株式会社。専任スタッフを配置した「働き方2.0推進室」を中心に働き方変革に取り組んでおり、2018年度より介護問題に着手。「一日でも早く」という強い思いから、スピード感をもってプロジェクトを推進しています。働き方2.0推進室室長の乾 ゆかり様、同スペシャリストの城宝 淳一様にお話をうかがいました。
以前より、残業時間の削減や有給休暇の取得率向上などには取り組んできましたが、新たに「女性活躍推進」を促すプロジェクトが土台となり、2014年より社を挙げて「働き方変革」を加速させていくことになりました。そして2017年に、私たちが所属する「働き方2.0推進室」が専門部署として発足しました。他社を見てみても、「独立組織」で「専任者」がいるというのは珍しいかもしれません。現在は、専任者4名と兼務者3名が中心となり、各部より選出された「推進メンバー」約50名とワーキンググループを立ち上げて課題検討をしたり、会社への提言をまとめたりしており、働き方改革の中核を担っています。具体的な施策としては、「テレワークの推進」にも取り組んでおり、2017年度には「テレワーク推進賞」(一般社団法人日本テレワーク協会主催)の優秀賞を受賞しました。そして、今年度からは「仕事と介護の両立支援」の取り組みをスタートさせました。
働き方に関する管理職層の意識改革を促すため、2017年12月に社内で、外部講師を招いて講演会を開催したのですが、「今後、人口が少なくなっていく中、働いていない人をどう働かせるか、辞めていく人をいかに止めるか」ということがその講演の一つの重要なテーマでした。まだ、介護による退職者はほとんどいませんでしたが、社員人口をあらためて調べてみると、約3割が団塊世代ジュニアであることがわかりました。つまり、この数年で会社を揺るがすような大量の介護離職が発生する可能性があることを初めて認識したのです。特に社長をはじめとする経営陣が強い危機感を持ち、介護問題への取り組みが経営戦略の重要課題となり、働き方2.0推進室でもゼロから「介護」についての施策を研究しはじめました。
今年の2月頃、リサーチを進める中で見つけたベネッセシニアサポートのオープンセミナーに参加しました。企業のニーズに沿ったサービス提供という視点と、企業の担当者向けに無料セミナーを開催している、というポイントにひかれ、さっそくベネッセの仕事と介護の両立支援サービス「Work&Care」を導入することに。7月には第1回のセミナーを開催することができました。
このスピードで開催できたのは、私たちの中にすでに“出遅れ感”があったから。オープンセミナーを受講した際に「社内にもいま困っている人がいるかもしれない」「一日でも早くやらなくてはいけない」と強く感じました。予算やスケジュールなどの調整は大変でしたが、一人の社員が辞めてしまう損失を考えたら、そんなことは言っていられない、と。
よく「育児」と「介護」はセットで語られますが、「育児」は社内に経験者や制度の利用者も多く、情報が得やすい。テレワークを推進していることもその一助となっており、育児を理由に会社を辞める人はほとんどいません。一方、「介護」については私たちも実態がよく分かりませんでした。まず、退職や転職の理由を明確に「介護」としている人は少ないので、介護問題で悩んでいる社員の数がつかみにくい。また、介護休暇/休業の利用者も少ないので、社内制度が周知されていません。部下が介護に直面した際に、管理職ですら適切な対応やアドバイスをすることができず、そのまま退職につながるような事態は何としても避けなければなりません。
7月から10月までに、介護に関する知識の底上げを図るための「仕事と介護の両立セミナー」の「基礎編」を計6回、「対面個別相談会」を計4回、東京と大阪で開催しました。初回のセミナーではどのくらいの人が参加するのか予想できず、定員を100名としましたが、募集開始から1時間で満席に。社員の「介護」への関心の高さは、私たちの想像以上でした。
受講者からは「ほとんど知識がなかったので勉強になった」という感想が圧倒的に多かったのですが、「介護は自分でやるものだと思っていた」「“介護はマネジメントである”という言葉が印象的だった」「体系立てて“何をすべきか”がわかった」「裏付けとなるデータがしっかりと示され腹に落ちた」などの声も。
11月・12月には「管理職編」を計4回開催し、その後は同セミナーの「応用編」を開催予定ですが、対面相談会ではハードルが高いという人のために「電話相談」の実施や「介護」に特化したハンドブックの作成も検討しています。知識を得るのは早いほうがいいので、もっと若い世代(20~30代)の人たちにも、ぜひセミナーへ参加してほしいと思っています。また、新しく入社する方にも機会を提供できるよう、セミナーや相談会をプログラム化して継続していきたいと考えています。
弊社は部門ごとの独自性が強く、「働き方2.0推進室」の専任になってはじめて、会社の中にはいろんな人がいて、様々な取り組みがあることに気がつきました。逆に、知ってしまったからこそ、そのキラリと光るものをもっと拾い上げていきたいという思いや、現場の声を聞いてもなかなか施策につなげられないジレンマ、期待を裏切れないという悩みも増えました。
また、「働き方変革」と一口に言っても、考え方や思いは人それぞれです。残業を削減するためには、自主的に業務を効率化するような取り組みが理想だと思いますが、中には「強制的にPCをシャットダウンしてほしい」と言う人もいます。労働時間の平均値は下がっていても、仕事の負担感も含め、差が広がっただけではないかとも感じます。「会社としてどこを選択していくべきか」という難しさはありますが、どこまで実態に踏み込んで、寄り添い、改善できるかが課題です。
今年度の重点施策は「介護」ですが、ほかにも優先順位をつけて取り組んでいかなければならないテーマはたくさんあります。社員のみなさんに対しては、上司、部下、同僚との「コミュニケーション」をますます活発にしていってほしいと思っています。それが、介護問題に直面した際に重要となる“お互い様意識”にもつながっていくのだと思います。
取材日:2018年10月23日
仕事と介護の両立セミナー / 対面個別相談会
インタビュー同日、「仕事と介護の両立セミナー(基礎編)」を実施。6回目となる今回も満席で、みなさんの関心の高さがうかがえました。
介護保険制度や各種サービスの概要からお金の問題まで、最新データを交えながらの解説に、受講者はメモを取りながら真剣に耳を傾けていました。